FATAR ファクトリー潜入レポート! 第1回:世界の鍵盤業界を支えるFATARとは

突然ですが、皆さんがシンセ/キーボード/MIDIキーボードに求めるものは何でしょうか? 楽器ということを考えれば、もちろん音源(サウンド)は大切です。しかし、その音源を活かすためには「鍵盤」の存在を欠かすことはできません。極端に言えば、どんなに最高の音源も、それを鳴らすための鍵盤がショボかったら、その魅力を活かしきることはできないでしょう。これは”演奏”時だけでなく”打ち込み”するときでもまったく同じです。

鍵盤楽器に欠かせない”キーボード”。そこには職人達の色々な思いが込められています。

 

そんな鍵盤に、60年以上こだわり続け、世界中で絶大な支持を集めるのが「FATAR(ファタール)」です。
ベテランのキーボーディストや機材通の人でない限り、あまり聴きなじみのないブランドかも知れませんが、実は鍵盤の世界では圧倒的なシェアと認知を誇るブランドです。シンセやMIDIキーボードの鍵盤部分は他のメーカーから買ってきて組み込むというケースも多く(もちろん自社開発する場合もあります)、その組み込み用のキーボードとしてFATARは数多くの製品に採用されているのです。

特にタッチの良さや演奏感に対する評価は高く、「FATAR製鍵盤を採用」というのをセールス・ポイントにしている製品もあるほど。もしかしたら、貴方がいつも弾いているキーボードもFATAR製かも知れませんよ?

…と、大分前置きが長くなってしまいましたが(汗)、今回なんとイタリアのFATAR本社に伺えるという機会を得て、ファクトリーに潜入。鍵盤作りの裏側をバッチリ取材することができました。今回から数回に渡って、FATARファクトリーの秘密を濃密レポートしていきます!

FATARの本社。当日は欧州旗、イタリア国旗に加えて日章旗も!


鍵盤業界を支えるFATAR

ここからは、CEO(代表)のMarco Ragni氏のコメントを中心にお送りします。

現CEOのMarco Ragin氏は2代目。大学では電子工学を専攻し、卒論テーマは「Sound Synthesis」だったとか…。卒業後は別の会社でエンジニアとして勤務した後、FATARに合流したという経歴の持ち主です。

Marco:私達FATARは1956年に私の父(Lino Ragni氏)が設立した、キーベッド(※)専門の会社です。
父は常々「音楽というのは芸術である。ミュージシャンの情熱を音楽という形に変換する際、もっとも最初に触れるのがキーベッドである。伝統に対するリスペクトを忘れることなく、同時に革新をし続けてより良い製品を目指していく。」と言っており、これが私達の経営理念にもなっています。

FATARでは現在、大きく分けて4タイプのキーベッドを作成しています。
まず電子ピアノやステージ・キーボード向けのピアノ鍵盤「GRAND TOUCH」。シンセサイザー用の「FAST TOUCH」、オルガン用の「WATERFALL TOUCH」、そしてクラシック(チャーチ)オルガン用の「CLASSICAL TOUCH」です。

それぞれのタイプごとに、さらに機構やタッチの違いで40種類のバリエーションを作っており、メーカーの様々なニーズに応えています。

さらにキーベッドだけでなく足鍵盤やペダルといったアクセサリーから、製品のボタンやノブ、キャビネットといったプラスチック・パーツまで、数多くの製品を作っています。ここで、私達の製品を採用しているメーカーの一部を紹介しましょう。

えっ、あのメーカーも!? と驚かれる方も多いのではないでしょうか? もちろん自社開発のキーベッドを採用するモデルもありますが、


FATAR誕生秘話

ここまで話を聞いていて、1つ疑問が湧いてきました。どうしてどうして”鍵盤楽器”ではなく”鍵盤”を作ろうと思ったのか…と。Marco氏にぶつけてみたところ、面白いお話を聞くことができました。

本社オフィスのエントランス。グリーンがイメージカラーになっています。

 

Marco:FATARを創業したのは、私の父であるというのは先ほどお話しした通りですが、父は元々祖父と共にアコーディオンのメーカーで職人として働いていました。しかし時代とともにアコーディオンの人気にも陰りが出て…。祖父は職を追われ(リストラ)そうになりました。

そこで父と祖父は話し合い、祖父に代わってまだ若くチャンスの多い父が会社を去ることになったのです。

この地域は非常にアコーディオンやオルガン製造が盛んで、その当時はまだ4〜50近いメーカーが存在していました。当時のイタリアは社員を雇うのではなく、作業は外注に発注するというのが一般的なスタイルだったんですね。父はそういった会社を回り、メーカーに変わって鍵盤の組み付け(アッセンブリ)を請け負う仕事を手に入れました。

そんな生活が数ヶ月続く中、父は「より優れたキーボードの機構」を思いつき、そのプロトタイプの売り込みを始めました。
メーカーからしたら、パーツを提供して組み上げて戻して貰うより、最初から父が作ったキーベッドを丸々購入した方が安上がりで性能も良い。ということもあり、次第に作業を”請け負う”のではなく、メーカーとしてキーベッドを”納入”する仕事へと変化していきました。

父の作ったキーベッドは話題になり、その後10年も経たない間にこの地域では、「自前で鍵盤を作るのではなく、父の作ったキーベッドを使って楽器を作る」というスタイルが一般的になったのです。これがFATARのはじまりです。

その後もキーベッドの改良や、作成のための機械やシステムを次々に導入し「より良いタッチを安い価格」で提供できるようになったことで、会社としても大きくなりましたが、1970年代からこの地域にあったアコーディオン・メーカーの業績が悪化し始め、80年代の半ばにはその多くが廃業を余儀なくされました。
それを見越した父は、80年代から世界を視野に入れ展示会(NAMM SHOWやMusikmesse等)へ参加し始めます。ちょうどアメリカの鍵盤楽器メーカーが成長を遂げるタイミングにマッチしたこともあり「イタリアのレカナーティに来ると、良質なキーベッドが手に入る」という流れが作れ、結果的にアメリカ製のほとんどのモデルがFATARのキーベッドを採用する。という黄金時代が始まるのです。

なお80年代末の時点で、ヨーロッパとアメリカでキーベッドの専門メーカーというのはFATARのみでしたが、これは現在においても変わりません。


会社名に隠された秘密とは…

ちなみに、FATARというブランド名に隠された意味がこちら。

 

FA → Fabbrica(英語ではFactory=工場)

TA → Tastiera(英語ではKeyboard=鍵盤)

R → RAGNI(創業者のファミリー・ネーム)

ざっくり訳すと RAGNIさんちの鍵盤工場 という感じでしょうか(笑)。まさかそんな意味だとは…。イタリアの会社ではよくあるネーミングなのだそうです。


市場の変化と、新たなる挑戦

Marco:90年代には日本の楽器メーカーが急成長を遂げます。皆さんもご存知のローランドやコルグも、このイタリアの地(KORGは未だにFATARの近所に工場を構えています)に現地工場を構えていましたが、そこで採用されていたのはFATARのキーベッドでした。またカシオはおもちゃ的なキーボードから、楽器としての本格的なキーボードを作りたいという変化のタイミングだったこともあり、5年間でかなりの量を納入しましたね。

しかし、その後楽器市場に大きな変化が生まれます。安価な中国製キーベッドの台頭です。またあるメーカーでは自社開発の流れも生まれ、我々のシェアは次第に落ち込んでいくことになるのです…。

その後、紆余曲折ありましたが昨今では「高品質なFATAR鍵盤」を求めるメーカーが増えてきました。一時は完全に取引がなくなっていたローランドも、一部の製品で再びFATAR鍵盤を採用するようになりましたし、我々のキーベッドを世界中に送り出し、現地で組み込んで製品を作っているメーカーも沢山あります。

やはり、楽器として重要な鍵盤には、価格ではなくしっかりとした品質のものを使いたい、ということなのだと思います。私達は自分達の作っているキーベッドに絶対の自信と誇りを持っていますから。


ということで、今回はここまで。FATARというブランドが鍵盤楽器や楽器業界にとってどれだけ重要な存在なのか、おわかり頂けたのではないでしょうか?

次回はFATARが独自開発・展開する自社ブランド、Studiologic(スタジオロジック)の誕生ストーリーをお送りします。ここ数年でStudiologicの名は大分知れ渡ってきていますが、実はStudiologicはFATARが展開するブランドだったんです!!

評価が高まり、日本でも名前をよく聞くようになったstudiologicは、実はFATARの手がけるブランドだったんです!

Studiologicの商品ラインアップはこちらでチェック!

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